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インタビュー「ネットで作り上げてきた熱狂コミュニティを、増えたファンとの間でどのように築くかが課題です。」株式会社ヤッホーブルーイング 望月卓郎氏

長野県軽井沢町を拠点にする国内最大のクラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」は、インターネットを駆使した独自のファン戦略やブランディングで知られています。インターネット事業のキーパーソンである、もっちーこと望月卓郎氏に、ヤッホーブルーイングとインターネットの関わりや、これからの展望をお聞きしました。

ヤッホーの楽天市場出店は1997年

株式会社ヤッホーブルーイング(以下、ヤッホー)は創業が1996年で、翌年の1997年になって自社醸造所が完成しましたが、その年の12月にはすでに楽天市場に出店しているんです。楽天市場のオープンが1997年5月ですので、ヤッホーは楽天市場の第一期(初年度)出店店舗になります。当時20何番めの店舗だったと聞いています。
当時私はまだ入社していなかったので代表の井手から聞いた話ですが、楽天市場のオープン当初は、三木谷社長や、のちの市場事業トップとなる小林常務が全国の企業・店舗を営業に回っていたそうです。ヤッホーにも三木谷社長が訪れ、それで出店を決めたとのこと。1997年といえば、日本ではネットショッピングモールはもちろん、インターネットを使う商習慣自体が皆無だった時代です。私たちにしたところでインターネットのイの字も知らない。Windows95が華々しく登場したのが1995年、Yahoo!BBが街頭でADSLモデムを大量に無料配布したのが2000年といえば、当時のインターネットを取り巻く環境がわかるかもしれません。

当時ヤッホーは創業まもない時期で、卸を通じて軽井沢エリアの営業に注力していた時期でした。地元を足がかりに、流通マーケットをこれから開拓しようとしていたんです。その矢先に楽天市場の話が飛び込んできた。よくわからないけれど面白そうだからやってみるか、現場はそんな感じだったと聞いています。今の社風に通じるものがありますね(笑)。当時は「地ビールブーム」のまっただ中で、会社の売上は急拡大していました。楽天では売れてもわずかな規模で、社内的にも放置状態。それでも、楽天の方に聞いた話では、初年度の楽天市場の中で「よなよなエール」が一番売れた商品だったそうです。出品されていた商材の中で「ビール」がたまたま買われやすかった事が理由だと思いますが、三木谷社長もポケットマネーでたくさん買ってくれたらしいですよ!

私は2009年、つまり楽天出店から12年目に入社しているのですが、その頃のヤッホーは楽天市場の「ショップ・オブ・ザ・イヤー」を3年連続で受賞していました。(注:2006年から2015年まで10年連続受賞)。入社してすぐネット店舗の担当となりました。ヤッホーでは2004年からネット通販に本腰を入れて取り組んでおり、すでに6〜7万人の顧客が付いていました。それを当時社員1人で担当していて、その方が産休に入るので、私が2人目として加わったわけです。商品企画から販売、注文処理、出荷作業まで、通販に関わることすべてが担当範囲でした。やれることは際限なくあって、楽天が催すセールなど、次から次へと来る商戦の波に乗っていくイメージ。いろいろな販売データが入手できますので、それらを読み解き、商戦に繰り返し乗っていくうちに、この波には乗ったほうがいい、これはパスと、だんだん当社製品が強い商戦・タイミングなどが見えるようになっていったんです。

エンドユーザー(顧客)と直接やり取りをしてきた蓄積

今でこそ、ファンマーケティングといえばヤッホーと言っていただけることも多いですが、初めからファンマーケティングを意識してインターネット通販をやってきたわけではありません。通販をきっかけとして、お客さんにイベント等も交えて楽しんでいただくうちに自然とヤッホー流のスタイルが確立され、結果的にそれがファンマーケティングの優良例と呼んでいただけるようになりました。
基本、お客さんに楽しんでいただく事を最優先に考えていますので、そんな思いで多数の通販顧客と直接コミュニケーションしてきた蓄積が、いまの私達を支えているのだと思います。ネット通販を始めた当初から数えると、累計で100万件近い販売実績(=お客様とのやりとり)があり、その膨大なやりとりが経験知になって、更にお客様にどんどん磨いていただけるという、素晴らしいサイクルです。実は最初にイベントを始めたのも、通販で買ってくれたお客さんと一緒飲んだら喜んでくれるんじゃないか?と思ったのが一つの理由なんですよ。思いついてから実際にやるまでのスピード感は、当社ならではだったと思います(笑)。

ソーシャルメディアとヤッホーとの相性は抜群にいいです。お客さんと直接繋がって、個人の感想に直接触れられる。まさにこれまでのヤッホーのやり方の延長線上にあるツールだと思っています。TwitterもFacebookも日本上陸直後からやっています。「こんなものがあるらしいですよ」「ネットで流行り始めるかもしれませんよ」となったら、じゃあとりあえずやってみるか!そんな感じのスタートでした。そういえば、Twitterの公式アカウントを登録したの私です(笑)。
企業SNSというと炎上などが話題になりますけれど、これもお客様と膨大な量のやりとりをしてきた経験があるので、勘どころというか、「これはOKだけどここまでやるとNG」みたいな感覚が少なからずあると思います。Twitterのフォロワーはそんなに多くなくて33000人くらいですが、お金をかけて増やしているわけではなく、純粋にオーガニックにヤッホーのことを面白がってくれる人たちの集まりなので、反応はとてもいいです。

増えたファンとどのように密度の高い関係を築くことができるか

ヤッホーの製品が2009年に大手コンビニの定番商品に採用されて、棚においていただけるようになって以来、コンビニ・スーパーを含む流通の売上が全社の売上の大部分を占めるようになりました。私達もこれを目標に活動してきましたが、やっぱり大きな流通に乗るのはものすごいインパクトがあります。
当社が目指しているのは「日本に新しいクラフトビールを楽しむ文化を創る」ことです。日本中の誰もがピルスナーだけじゃない様々な個性的なビールを楽しめる。店頭やパブでいろいろな種類のビールが選べるのが当たり前の文化。それが私たちの目指す世界です。当社のビールが大手流通に採用されたことで、その世界に一歩近づいたと思っています。今まで私たちが接触できなかった膨大な数の潜在顧客が誕生したとも言えますね(笑)。

まだヤッホーのことをご存じない大勢の方たちに、当社の強みやビールを飲む楽しさを伝えることが大切だと思っています。お陰さまでマスコミに頻繁に取り上げられるようになったこともあり、今は店頭だけでなくいろいろな興味を持ったユーザーが接触してきてくださいます。イベントに興味を持った方、社風に興味を持った方、代表の話が面白くて興味を抱いた方、お子様からビールを贈られたお父さん、うちの公式ビアレストラン(YONA YONA BEER WORKS)にいらした方、などなど。まさに全方位からお客さんがいらっしゃいます。
今は、そういういろいろな方のためのコンテンツが自社のwebサイトに求められているのだと思っています。様々なバックグラウンドのお客様がアクセスしてきたときに、ただの販売ページではヤッホーの魅力は伝わりません。いかにヤッホーを面白がっていただき、ビールだけでなく、ヤッホーブルーイングの製品や会社・社風、そしてそこで働く人たちに興味を持っていただくか。ここにおいて、今まで私達がやってきたような「顧客対応」や「おもしろい発信」が、一周回ってまた大事になってきたと感じます。ライトなつながりのユーザーが激増した現在、これまで小さなインターネットの世界で作り上げてきた熱狂的なファンとの関係性を、そういった裾野の広いユーザーの皆さんにどう拡大し、強い関係性を築いていけるか。これがこれからの課題であり、チャレンジです。

もう一つ考えているのが、ファンの方の可視化です。今まで私達が「ヤッホー会員」と呼ぶときは、通信販売の登録会員・メルマガ会員の事を指していました。その方々に対していろいろなサービスを提供してきたのですが、あらゆるお客様がコンタクトしてくる現在、通販だけの登録会員では、逆にマイノリティです。ですので、どういう方に、どういう方法で、どんなメリットを提供していくべきなのか、そこから検討しています。通販サイトの会員登録の仕組みとは全然違う発想が求められるのを実感しています。

インターネットやSNSでの行動は把握できるし、うちのイベントに来ていただいた方の情報も把握できます。それと同じように、いろいろな接点から入ってきたお客様が、どういう行動をしているのか、どこで、何を買われているか、そういうことを把握したい。通販だけの世界では当たり前に実現できているその方法を、それ以外にも応用していきたいんです。 把握などというとマーケティングっぽいと思われるかもしれませんが、マーケティング視点というよりは、どの場面でもお客様にメリットをお返ししたいという思いです。通販でポイントがつくなら、店頭で買っていただいた方にもやっぱり何かお返ししたいじゃないですか。店頭来店を私たちが認識できればいいのですから、手法的なハードルはそんなに高くないと思います。実はいろいろ動き出していることもあるのですが、今はまだちょっと言えないので、しばらくお待ちください。そういう取り組みはマーケティングの世界では当たり前かもしれないけれど、私たちは一周回ってやっとその手前まで来たという感じです。戦略という大上段から入らないところが、かえってうちらしくて良いんじゃないかな。

プロフィール

望月 卓郎 氏

望月 卓郎 氏(もっちー) |

株式会社ヤッホーブルーイング

「よなよなエール」「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など熱狂的なファンを持つクラフトビールを醸造・販売する国内クラフトビール最大手メーカー、株式会社ヤッホーブルーイングの通販事業メンバー。現在は、ネットマーケティング部門統括の肩書きで、通信販売・お客様相談室・オウンドメディアなどを全般的に担当。ヤッホーブルーイング は「よなよなエールの超宴」などのファン感謝イベントやSNS、個性的な企画など、ユーザーと距離の近いファンサービスで広く知られています。
公式サイト

記事を書いた人

インタビュー・ライティング

石井陽太郎

株式会社JBNディレクター、これまでに飲んだよなよなエールの本数は間違いなく社内トップ。

インタビュー・撮影

坂田大輔 |

株式会社JBNでディレクター。SBWを総合プロデュース